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プリズムレンズとは
例えば、1プリズムのレンズでは、1m先の物体が1cmずれて見え、2プリズムのレンズでは2cmずれて見えます。
眼鏡レンズでのプリズム発生量は、プレンティスの公式から、以下のようになります。
- P[△]=h[cm]×D[D]
- P:プリズム量
- h:光学中心から離れた距離
- D:レンズ度数
では、もっと別の話をしていきます。
ポロプリズムとは
像を正立にする為に用いられ、双眼鏡などで使用されています。
通常、像は上下左右逆ですので、上下と左右をそれぞれ2回全反射させる事で、像を正立にします。
スネルの法則は以下の通りです。
- sinθ1/sinθ2 = n2/n1 = v1/v2 = λ1/λ2
- n1sinθ1=n2sinθ2
屈折角度が90°では、sin90=1となりますので、臨界角が求められます。
- 臨界角とは
- 屈折率 が大きいものから小さいものに光が向かうとき、 全反射が起きる最も小さな入射角のことです。
全反射の身近な例としては、光ファイバーがあります。
光ファイバーの中心はガラスなどで、周辺を小さい屈折率の物で覆っています。
眼鏡レンズでのプリズム
では、どういう時にプリズムが発生するのでしょうか。
特別な時に発生するわけではなく、実は常に発生しています。
これが、コンタクトレンズでは補正出来ないメリットともなり得ますが、輻輳や開散、更には足元が浮いて見えたり、遠近感などに影響を与えてしまいます。
レンズの光学中心と瞳孔中心とのずれや、レンズの角度などにより簡単に発生します。
実際の瞳孔間距離と作成時の違いで発生しますし、適切な眼鏡調整が行われないという事でもプリズム作用が発生します。
これは、つまり、
プリズム処方しているのと一緒です。悪く作用する場合もあれば、許容範囲内の場合もありますし、結果的に良く作用する事もあります。
例えば、S−5.00の眼鏡作製時に、PDが本来よりも1㎜ズレてしまった場合には、
0.5△が発生しますので、5m先の物が2.5cm移動して見えている事になります。10m先では5cmズレて見えています。
これが良く働くのか、悪く働くのかは、輻輳力や開散力、斜位などが関係します。
一般的には、開散力よりも輻輳力が強いですし、内斜位よりも外斜位の方が多いですので、そちら側のズレならまぁ良いかもしれませんが、意図していないズレはどうなんでしょうかね。
遠用PDと近用PD
近用眼鏡のPDは、眼が内側に寄りますので、遠用PDよりも小さくして加工します。
では、何ミリ小さくすると良いのでしょうか。レンズの光学中心を通る条件で計算しますと以下の通りとなります。
- 近用PD = 遠用PD×(注視距離-12mm) / (注視距離+13mm)
- 角膜頂点間距離が12mm
- 眼球の回旋点が13mm
以上の計算から、以下の関係性を導き出せます。
例えば、PDが55〜70[mm]の人が300[mm]前後の距離を見る時には、5[mm]内寄せすると、視線が光学中心を通る事になります。
調節ラグも考慮していませんし、あくまで大体の値となります。
そうすると、近用では4mm位、PC距離では3mm位が妥当な所だといえますね。
輻輳不全の人には、凹レンズで2mm引いた値にして、BIプリズムによる輻輳を手助けする処方も良いでしょう。
米国式21項目検査
21項目全てを、全てのお客様に実施することは不可能であり、あまり意味のない事である事は、先にお伝えしておきます。
個々の訴えの原因を発見する為に、必要なテストをより的確に正確な検査の方向付けがまず必要となります。
プリズム処方をする為に必要となる測定値は、以下の測定で求める事とします。
補足として、右側にある【カッコ】内の値は、モーガン標準値表(Morgon:1944より)となっております。
#1 直像鏡による外眼部、水晶体、眼底などの検査
#2 角膜曲率半径の測定
#3 裸眼、又は従来の装用度数を通しての遠方水平斜位
#4 静的検影法
#5 動的検影法(50㎝)・・・【1.25~1.50】
#6 動的検影法(1m)
#7 自覚屈折測定検査(バランステスト含む)
#8 #7における遠見水平斜位・・・φ~2EXO(exophoria:外斜位)
#9-10 #7における遠見輻輳力(実性相対輻輳)・・・【7~11 / 15~23 / 8~12】
#11 #7における遠見開散力(虚性相対輻輳)・・・【× / 5~9 / 3~5】
#12 A #7における遠見上下斜位
#12 B #7における遠見上下方向開散力
#13 A 裸眼、又は従来の装用度数を通しての近見斜位
#13 B #7における近見水平斜位(およびAC/A)測定・・・【φ~6EXO (Gradient 3~5EXO)】
#14 A 単眼調節ラグ測定・・・【0.75~1.25】
#14 B 両眼調節ラグ測定・・・【0.25~0.75】
#15 A #14Aにおける近見水平斜位
#15 B #14Bにおける近見水平斜位
#16 A-B 近見輻輳力(実性相対輻輳)・・・【14~20 / 18~24 / 7~15】
#17 A-B 近見開散力(虚性相対輻輳)・・・【11~15 / 19~23 / 10~16】
#18 A 近見上下斜位
#18 B 近見上下方向開散力
#19 A 調節近点測定(プッシュアップ法)
#19 B マイナス球面レンズによる調節力測定
#20 近方実性相対調節力・・・【−1.75~−3.00】
#21 近方虚性相対調節力・・・【+1.75~+2.25】
輻輳と開散について
プリズム処方をする為には、輻輳と開散についての理解が必要となります。
遠方と近方、それぞれの斜位を測定する事で、以下のように分類(TaitやWickの分類)できます。
- 遠方はほぼ正位、近方に不良(外斜位、内斜位)
- 輻輳不全・過剰
- 遠方に不良(内斜位、外斜位)、近方はほぼ正位
- 開散不全・過剰
- 遠方、近方ともに不良
- 基本的外斜位・内斜位
更には、AC/A比も考慮されてプリズム処方はされます。
- AC・・調節性輻輳(Accommodative Convergence)
- A・・調節(Accommodation)
簡単には、1Dの調節で何プリズムの調節性輻輳がなされるのかの比率がAC/A比です。
Gradient AC/A比の正常値は、4±2△です。
AC/A比が高ければ、球面度数で調整できます。逆に、AC/A比が低ければ球面度数での調整ができません。
仕方がないので、専門機関で視機能訓練を行うか、プリズム処方に頼るしかありません。
- AC/A比
- Gradient(グラディエント)AC/A比
- (近見斜位−加入時の近見斜位)÷(調節変化量)
- 調節変化量の例:S+1.00の場合は1.00
- 近接性輻輳が介入しない
- Heterophoria(ヘテロフォーリア)AC/A比
- PD[cm]+(近見斜位−遠見斜位)÷(調節変化量)
- 調節変化量の例:40cmの場合は2.5
- 近接性輻輳が介入する
- Gradient(グラディエント)AC/A比
輻輳の種類
両眼視をする際には、以下の4つの輻輳が複合的に重なり、随意的もしくは不随意的にうまく使い合わされています。
- 融像性輻輳
- 調節の変化無しで、左右眼での像のズレを重ね合わせようと生じる輻輳
- 調節性輻輳
- 調節の変化により生じる輻輳
- 近接性輻輳
- 物を近くに自覚することにより誘発される輻輳
- 緊張性輻輳
- 神経系統による眼筋肉への支配が全くなくなった時の眼位(死後など)から眼が機能している時に働く最低限の眼位(深い睡眠時や麻酔中など)までの輻輳
ヘテロフォーリアAC/A比の意味と、グラディエントAC/A比
具体的な例として、以下の状態を考えてみましょう。
遠方と近方と共に正位、正視、PD60mmの人が1m先の物体を見る時のプリズムを考えてみましょう。
つまり、上記の輻輳を使い、PDが60mmの人が1m先を見る時のプリズム量は6△必要だという事がわかります。
PDが70mmの人だと、プリズム量は7△必要となります。この事から、PDが違えば、同じ1m先でも変わる事がわかるでしょう。
この事を踏まえて、調節性輻輳を考えましょう。
- 1m先を見る際に必要となる調節力は1Dです。
- 1Dの調節でPD60mmだと、必要な輻輳力は6△です
正視で、斜位なしの場合に、
もし例えば、AC/A比がPDと同じ場合は、遠方も近方も斜位なしとなります。
PD60でAC/A比が6△の人が50cmを見る場合を考えてみても斜位なしとなります。それは、以下の通りです。
50cmの距離から、2.0Dの調節刺激(調節刺激≠調節反応)となります。2.00Dですので、AC/A比の2倍、つまり12△の調節性輻輳が起こります。よって、50cmでも斜位なしとなります。
AC/A比の計算問題
例題①
ある正視の人の裸眼の遠方水平斜位は1△の外斜位であった。次に近方水平斜位を裸眼の状態で測定したところ4△の外斜位であった。この場合のHeterophoria AC/A はいくつか。但し、遠見時のPDは60mm、近方斜位測定距離は40cmとする。
【解答】
- Heterophoria AC/A比=PD[cm]+(近方斜位−遠方斜位)/(調節刺激変化量)なので、
- Heterophoria AC/A=6.0+{−4−(−1)} / (1 / 0.40) = 4.8 [△/D]
※Exoはマイナス扱い、Esoはプラス扱いで計算します。
例題②
ある正視の人の裸眼の近方水平斜位は、1△の内斜位であった。S+1.00Dを加入し、再度近方水平斜位を測定したところ3△の外斜位となった。この場合の Gradient AC/A はいくつか。
【解答】
- Gradient AC/A 比=(同じ測定距離での斜位の変化量)/(調節刺激の変化量)なので、
- Gradient AC/A=4[△/D]
プリズム処方と球面度数
『眼位』と『AC/A比』による『対処法』をまとめると以下のようになります。
注)短期間プリズム装用した後、そのプリズムを通しての斜位が、プリズム装用前の斜位とほぼ同じになってしまうという『プリズム適応現象』は上下方向より水平方向に生じる頻度が高いです。
プリズム処方の参考度数
『固視ずれカーブ法』というのもありますが、
『シェアードの基準』と『パーシバルの基準』で考えていきます。
- 固視ずれカーブ(fixation disparity curve=略称:FDC)
- プリズム等を眼前に装用すると両眼視の刺激が変わり、その結果、固視ずれ量も変わります。
- 縦軸と横軸のグラフにして分析します。
- 測定器具として、ディスパロメーターなど
シェアードの基準
- △=(2P−R)/3
- P:斜位
- R:余力
- 値が0以下なら、基準を満たします
正常な両眼視を維持する為には、余力(輻輳余力、開散余力)が斜位の2倍の量と等しいか、またはそれ以下でなければならないとしています。
余力とは、斜位を補正した後の、まだ残っている融像性輻輳のことです。外斜位の場合、輻輳余力とは実性相対輻輳力のことで、内斜位の場合、開散余力とは虚性相対輻輳力のことです。
『シェアードの基準』の計算例
近方での測定の結果、以下のデータが得られた。シェアードの基準に従うと、必要なプリズム量はいくらか。
水平斜位:9△Base IN(外斜位)、実性相対輻輳のボケ:8△、虚性相対輻輳のボケ:22△
【解答】
- △=(2P−R)/3 なので、
- △=(2×9−8)/3=3.3△BI
- 0以下ではないので、基準を満たさない。
パーシバルの基準
- △=(G−2L)/3
- G:相対融像力の大きい値
- L:相対融像力の小さい値
- 値が0以下なら、基準を満たします
全相対融像幅の中央1/3の間をドンダーズ線が通過するのが正常な両眼視の条件としています。
ドンダーズ線とは、それぞれの測定距離で視物をはっきり且つ1つに見るのに要求される調節刺激と輻輳刺激を示す点の集まりです。
『パーシバルの基準』の計算例
近方での測定の結果、以下のデータが得られた。パーシバルの基準に従うと、必要なプリズム量はいくらか。
水平斜位:9△Base IN(外斜位)、実性相対輻輳のボケ:8△、虚性相対輻輳のボケ:22△
【解答】
- △=(G−2L)/3 なので、
- △=(22−2×8)/3=2△BI
- 0以下ではないので、基準を満たさない。
プリズム基準の計算問題
- 測定結果が以下の場合
- 遠見水平斜位測定 #8・・2EXO
- 遠見水平方向輻輳力測定 #9・・10/18/12
- 遠見水平方向開散力測定 #11・・✕/9/5
- 近見水平斜位測定 #13 B・・4ESO
- 近見水平方向輻輳力測定 #16 A・・23/26/17
- 近見水平方向開散力測定 #17・・7/15/9
- AC/A比 ・・ 6
- 遠方と近方それぞれの、シェアードの基準とパーシバルの基準を満たすか否か。
【解答】
◎シェアードの基準を満たすか否か
- 遠方:P={2×(#8)-(#9)}/3=(2×2-10)/3=-2
- ゼロ以下なので満たす
- 近方:P={2×(#13B)-(#17)}/3=(2×4-7)/3=1/3
- ゼロ以上なので満たさない
◎パーシバルの基準を満たすか否か
- 遠方:P={(#9)-2(#11)}/3=(10-2×9)/3=-8/3
- ゼロ以下なので満たす
- 近方:P={(#16A)-2×(#17)}/3=(23-2×7)/3=3
- ゼロ以上なので満たさない
この例題の場合に、もし仮にプリズム処方するのであれば、近方のみのプリズム処方眼鏡使用です。
または、AC/A比が6なので球面度数で調整するのであれば、例えばS+0.50のプラス度数の加入で3△開散することを利用して処方すれば良いです。
但し、あくまで計算上の話です。実際には、適応力や装用感も大事ですので、参考程度でのプリズム量である事に注意です。
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