度付き水中眼鏡のレンズ形状

一般消費者、眼鏡作製技能士を志す方に向けて

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水中での度数

裸眼で水中に潜ると、角膜前面が大気中(屈折率1.0とする)ではなく水(屈折率3/4)に接します。

そうしますと、角膜の屈折力が殆ど零(角膜屈折力−0.29D)に等しくなります。

眼全体でみますと、水晶体の屈折力(屈折力+19.11D)のみが残ります。

結果として、猛烈な遠視状態(屈折力+18.8D)となります

スネルの法則での、媒質1の屈折率n1が、大気中(n空気=1.00)から水中(n水中=1.33)に変わるからです。

媒質2とは角膜を指します。そして、媒質3となる房水(n房水=1.336)へと達します。

つまり、レンズ両側の媒質が異なる場合には、像側焦点距離 f’ と物側焦点距離 f は等しくなりません。

光軸と平行に入射、もしくは射出する光線の結像

像側屈折力D’と物側屈折力Dも等しくはなりません。

模型眼

眼を1つの光学機器と考え、各部位の計測測定値を示す為に作成された眼球を『模型眼』といいます。

よく利用される『Gullstrand(グルストランド)の模型眼』では、角膜の前面屈折力は48.83Dであり、後面屈折力は−5.88Dです。

無調節時の水晶体屈折力は19.11Dであり、最大調節時の屈折力は33.06Dです。

無調節時の全屈折力は58.64Dであり、最大調節時では70.57Dとなります。

水中眼鏡の形状

像側頂点屈折力をD’Vとしますと、

『D’V=n/(n/D’1 -t)+D’2という関係が成り立ちます。

t[mm]はレンズの厚みとし、D’1はレンズ前面の像側屈折力、D’2はレンズ後面の像側屈折力とします。

水中では、レンズ前面は水に接し、レンズ後面は空気に接しているものとします。

では、どういうレンズ形状が製作し易いのでしょうか。

薄レンズでは厚みtが無視できますが、厚レンズの場合には無視できなくなります。

眼鏡レンズに近い『メニスカスレンズ』ではどうなのでしょうか。『凸平レンズ』『平凸レンズ』ではどうなのでしょうか。

答えは『平凸レンズ』なのですが、何故そうなるのでしょうか。

それぞれ、一緒に計算しながら考察していきましょう。

メニスカスレンズ(眼鏡に近い形状)の場合

例として、S+4.00[D]の眼鏡で補正される遠視眼を考えます。

レンズの屈折率を1.5とし、
レンズ後面の像側屈折力 D’2= −6.00[D]、
レンズ厚t=10[mm]とします。

先ずは、水中での 像側頂点屈折力がD’V水中=+4.00 [D]になる為の水中での像側前面屈折力はD’1水中を求めます。

D’V=n/(n/D’1 -t)+D’2 の公式から

+4.00=1.5/(1.5/ D’1水中 −0.001)+(−6.00)を計算しますと、
D’1水中 ≒−4.11[D]となります。

これを、大気中での屈折力に換算する為に、

D’1空気 =(nレンズ−n)/r1 から r1 を求めますと、
r1≒−0.041[m]となります。

空気中での 像側前面屈折力D’1空気 を求めますと、
D’1空気 =(nレンズ−n空気)/r1 ≒−12.20[D]となります。

像側頂点屈折力D’V空気 = nレンズ/(nレンズ/D’1空気 -t)+D’2 を計算しますと、
D’V空気≒−17.28[D]となります。

レンズの厚みを無視した場合 D’V空気は約+23.9[D]となり、−17.28[D]と比べますと、差が大きいです。

メニスカスレンズで度付き水中眼鏡を作製しようとしますと、レンズの厚みtによりレンズ前面屈折力 D’1 が変わりますので、計算がとても面倒になります。

では、レンズの前面か後面を平らにした場合はどうでしょうか。

凸平レンズの場合

水中レンズの前面に凸平を付ける場合には、レンズ後面の D’2 =0.00になります。

D’V =+4.00[D]ですので、レンズ前面屈折力 D’1 を求めるだけで良くなります。

+4.00=1.5/(1.5/ D’1 −0.001)+0.00から
D’1水中 =+3.90[D]となります。

メニスカスの計算と同様に・・・計算し、
r1≒−0.043[m] から D’1空気 ≒11.63[D]となります。

D’V空気≒+12.61[D] となります。

レンズの厚みを無視した場合 D’V空気は約+12.0[D]となり、+12.61[D]と比べますと、厚みによる誤差は少ないです。

平凸レンズの場合

水中レンズの後面に平凸を付ける場合には、レンズ前面の D’1 =0.00になります。

+4.00=1.5/(1.5/ D’1 −0.001)+ D’2 から計算するのですが、
右辺の1.5/(1.5/ D’1−0.001)=1.5/(inf−0.001)=1.5/inf=0 となりますので、
D’2 =+4.00[D]となります。

レンズの厚みに関係なく、レンズ後面の屈折力 D’2のみを考えれば、必要なレンズを作製する事ができます。

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